どこから痴漢になる?痴漢にあたる行為について
「痴漢」という言葉はよく耳にします。実際に痴漢事件の現場に遭遇した人もいるのではないでしょうか。
しかし、痴漢行為とは具体的にどのようなものを指すのでしょうか。例えば、キスやハグは痴漢にあたるのでしょうか。
ここでは、痴漢に関する処罰法規と、処罰される痴漢行為具体例、痴漢をした場合の対処法について説明します。
このコラムの目次
1.痴漢に関する法律
痴漢罪というものは法律上存在しません。痴漢行為を罰する主な法律は①各都道府県の迷惑防止条例、②強制わいせつ罪(刑法176条)です。
(1) 迷惑防止条例
痴漢行為を処罰する場合に、最も多く適用されるのが迷惑防止条例違反です。
迷惑防止条例は、各都道府県が定めるものです。そのため、都道府県ごとに文言は異なりますが、実質上の違いは大きくありません。
ここでは、東京都の迷惑防止条例を例に説明します。
東京都迷惑防止条例第5条1項は、「何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であって、次に掲げるものをしてはならない」と定めています。
そして禁止行為として、第5条1項1号は、「公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること。」としています。その具体例については後述します。
迷惑防止条例違反は、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金(常習犯は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金)に処されます。
(2) 強制わいせつ罪
強制わいせつ罪は、①13歳以上の者に対して暴行・脅迫を用いてわいせつな行為をした者、又は②13歳未満の者に対してわいせつな行為をした者を処罰するものです。
13歳以上の者に対しては、迷惑防止条例と異なり、暴行・脅迫を用いてわいせつな行為を行う必要がありますが、13歳未満の者に対しては手段・方法を問いません。
刑法における「わいせつ」とは、「徒らに性欲を興奮又は刺激せしめ,かつ,一般人の正常な性的羞恥心を害し,善良な性的道義観念に反する」ことを意味します。
ただし、これは、ポルノ書籍などを禁止する、わいせつ物頒布罪の判例(最高裁昭和26年5月10日判決)で示された理解です。わいせつ物頒布罪は善良な社会風俗を守るための規定ですが、制約を受ける表現の自由に配慮して、わいせつ概念を限定して狭く考えています。
これに対して、強制わいせつ罪においては、被害者の性的自由を守るという観点から、「わいせつ」な行為をより広く捉えるべきとされ、被害者に性的な羞恥心を抱かせる行為と理解されています。
強制わいせつ罪を犯した場合、6月以上10年以下の懲役に処されます。
2.迷惑防止条例違反と強制わいせつ罪の区別基準
では、具体的に、どのような行為が迷惑防止条例違反や強制わいせつ罪として処罰されるのでしょう?
さらに、ある痴漢行為について、迷惑防止条例違反と強制わいせつ罪のどちらで処罰されるのか、その区別の基準はあるのでしょうか?
電車の中で、スカートの上から、お尻をなでる痴漢行為を例にとって説明しましょう。
この行為は、公共の乗物で、正当な理由もなく、衣服の上から被害者の身体に触れており、被害者を著しく羞恥させることに疑いはありません。よって、これは東京都迷惑防止条例違反となります。
しかも、この痴漢行為は、被害者に性的な羞恥心を抱かせる行為である以上、強制わいせつ罪の「わいせつな行為」にもあたります。
したがって、電車の中で13歳未満の被害者のスカートの上から、お尻をなでる痴漢行為は、東京都迷惑防止条例に違反すると共に、強制わいせつ罪にも該当することになります。
では、この場合、被害者が13歳以上のときはどうなるでしょうか?
13歳以上の被害者に対しては、わいせつな行為が行われただけでは足りず、わいせつな行為の手段としての暴行・脅迫があることが必要です。
しかも、伝統的には、その暴行・脅迫とは、被害者の反抗が著しく困難となる程度の暴行・脅迫を要すると理解されてきました。
しかし、被害者の尻に触る行為は、被害者に性的な羞恥心を抱かせる「わいせつ行為」であるだけでなく、それ自体が物理的な有形力の行使として「暴行」に該当するものです。
このように「暴行自体がわいせつ行為であるとき」は、被害者の反抗が困難となるか否かは問題とされません(大審院大正13年10月22日判決)。
したがって、電車の中で、被害者のスカートの上から、お尻をなでる痴漢行為は、被害者の年齢を問わず、迷惑防止条例違反であり、かつ、強制わいせつ罪であることになります。
このように、法律論としては、迷惑防止条例違反となる痴漢行為と、強制わいせつ罪となる痴漢行為は、重なり合うのです。
ですから、このケースで、迷惑防止条例違反と強制わいせつ罪の両罪で逮捕・勾留し、両罪とも起訴することもできます。
ただ、実務の運用としては、両罪の法定刑の違いに着目して、悪質性の高い痴漢行為は強制わいせつ罪、そうでない場合は迷惑防止条例違反に振り分けて取り扱っています。
つまり、強制わいせつ罪の「6月以上10年以下の懲役」という重い罪に問うべき悪質性があるか、それとも迷惑防止条例違反の「6か月以下の懲役または50万円以下の罰金」に問えば十分と言える場合かによって異なるというわけです。
3.痴漢にあたる行為の具体例
では、以上の点を、他のいくつかの痴漢行為について検討してみましょう。
映画館内で、女性の衣服の上から、胸を触る行為
映画館という公共の場所で正当な理由なく身体に触っており、被害者を著しく羞恥させることも明白ですから迷惑防止条例違反です。
このケースでは、強制わいせつ罪にまでは問われないことが通常です。
しかし、次のような場合は、悪質性が高いとして、強制わいせつ罪が適用される可能性があります。
- 下着の中に手を差し入れて胸、尻、陰部を触る行為
- 長時間にわたり執拗に触る行為
- 逃げようとする被害者につきまとって触り続ける行為
- 犯人の手を払いのけようと抵抗する被害者の手を押さえつけて身体を触る行為
駅で、被害者の承諾なくハグする行為
公共の場所で、正当な理由なく、衣服の上から身体に触っており、迷惑防止条例違反となります。
「軽いハグ程度で?」という疑問があるかもしれませんが、承諾もしていないのに身体を抱かれる以上、被害者を著しく羞恥させたり、不安を覚えさせたり行為と評価されても致し方ありません。
ただし、瞬間的なハグである限り、悪質性が高いとは言えず、強制わいせつ罪に問われる可能性は低いでしょう。
被害者の自宅内で、被害者の承諾なくハグする行為
被害者の自宅は、公共の場所、公共の乗物ではありませんから、東京都迷惑防止条例違反ではありません。
また、瞬間的な軽いハグである限り、「わいせつな行為」とまで評価することはできず、強制わいせつ罪に問われることもないでしょう。
しかし、嫌がる相手を長い時間抱きしめ続ける行為や、ハグするだけでなく、同時に胸・尻・股間などを触る行為は、「わいせつな行為」と評価され、強制わいせつ罪が適用される可能性があります。
路上で、被害者の承諾なくキスする行為
路上という公共の場所で、正当な理由もなく、くちびるをくちびるに押しつけて、被害者の身体に触っており、著しく羞恥心や不安を覚えさせる行為ですから、迷惑防止条例違反です。
瞬間的なキスにとどまらず、くちびるを押しつけている時間が長いケースや、くちびるに触れるだけでなく被害者の口内に舌を挿入したケース、キスしながら抵抗する相手の手を押さつけたケースなどでは、悪質性が高いとして、強制わいせつ罪に問われる可能性が高いでしょう。
電車内で、電車が揺れたために、意図せずに女性客の尻に手があたってしまった
迷惑防止条例違反も、強制わいせつ罪も、あえて犯罪行為に及ぶ場合(故意犯)だけを処罰するものです。
意図せずに相手の身体に触ってしまっても、何らの犯罪にもあたりません。
4.もし痴漢をしてしまったら
痴漢をしてしまった場合には、犯行を真摯に反省して、被害者と示談をするべきです。
示談とは、加害者が一定の金銭(示談金)を払うことで、被害者が犯罪事実を許すという、加害者と被害者間の合意を言います。示談をすることで、検察官が不起訴処分をする可能性が高まり、自分に前科がつくのを回避できる可能性も高まります。
一方、被害者としても、手間や時間のかかる民事訴訟を提起しなくても、一定の金銭を得ることができるメリットがあります。
示談をしようと考えた場合、弁護士に示談交渉を依頼することをお勧めします。それは以下の理由によります。
まず、弁護士がついていない場合、被害者との連絡がとれないおそれがあります。
痴漢に限らず、性犯罪の被害者は、加害者と再び接触したがらないのが通常です。そのため、示談交渉をしようにも、被害者が連絡先を教えてくれない、示談交渉の席についてくれないといった事態になってしまいます。
しかし、加害者側に弁護士が付いている場合、加害者に連絡先を教えない条件で弁護士に連絡先を教えてくれることが大半です(この場合、弁護士は警察や検察を通して連絡先を知ることになります)。
弁護士が交渉を担当することで、被害者は加害者と直接のやりとりをする必要がないので、安心して話合いに応じてもらえるわけです。
次に、示談がまとまったときには、合意の証拠として、示談書を作成します。一般の方は、この示談書に何を書いたらいいのかが分からないと思われます。弁護士がついていれば、示談書の作成に困ることはありません。
また、示談金の額について、相場に合わない不当な高額を被害者から要求される場合があります。その際に弁護士がついていることで、適正な額の示談金で示談を成立させる可能性が高まります。
5.痴漢をしてしまったら弁護士へ相談を
以上、どのような行為が痴漢にあたるのか説明しました。
もし、痴漢をしてしまい、警察に逮捕されるかも?と不安に思われる方や、警察からの呼び出しを受けているという方は、お早めに泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。
痴漢をはじめとした刑事事件の弁護実績豊富な弁護士が、被害者の方の利益を守るため、誠心誠意サポートいたします。
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