刑事事件

万引きの損害賠償はいくらになる?

損害賠償という言葉を聞いたことがありますか?これは文字通り、相手方に与えた損害を賠償することを意味します。

それでは、万引きをしてしまった場合の損害賠償はいくらになるのでしょうか?
万引きは物を盗むことだから、盗んだ物の価額=損害賠償の額だけだ!と考える方がいらっしゃるかもしれません。

しかし、常に盗品の価額で済むとは限りません。
万引きの損害賠償は、盗んだ物の価額に加えて、被害者の精神的な損害に対する補償額(慰謝料)を請求されるケースがあるからです。
以下で詳しく説明します。

1.そもそも万引きとは?

万引きとは、一般に、店にある商品を無断で取ってくることを言います。
万引きをすると処罰されるのは皆さんご存知だと思います。

もっとも、法律上に「万引き罪」という罪が存在するのではありません。万引きを処罰するのは窃盗罪です。

刑法235条
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

万引きをすると10年以下の懲役が科される可能性があります。そのため、万引きは決して軽い犯罪ではありません。

注意すべきことは、犯罪を犯して処罰されることと、被害者に損害賠償を払うことは別次元の話ということです。

つまり、刑事手続きで罰金刑や懲役刑に処されたからといって、被害者に損害賠償をしないでいいということにはなりません。刑罰とは別に、被害者に対する補償をしなければならないのです。

2.損害賠償の内容

犯罪を犯し、被害者から損害賠償を請求された場合、加害者は損害賠償金を払わなければなりません。

損害賠償金は「財産的損害」に対する補償と「精神的損害」に対する補償を合わせた額となります。

(1) 財産的損害

財産的損害とは、経済的な不利益を言います。

これをいくらと算定するかはケースバイケースです。例えば、書店で漫画本を万引きしてレジを通過して店を出たところで捕まったというケースでは、多くの場合、その場で漫画本は回収されます(その場での買取りを要求されるときもあります)。

店舗側が回収した漫画本を棚にもどして商品として販売するならば、財産的損害はゼロですから、これを賠償する必要はありません。

他方、生鮮食品のように、回収しても商品とはできない被害品では、販売価額そのものが財産的損害となります。
DVDやゲームなども、商品自体の価値には変わりはなくとも、一度開封されれば、新品として販売することはできませんから、やはり新品の販売価格が損害額です。

なお、廃棄せざるを得ない食品などと異なり、書籍やDVDなど、新品としては販売できなくなっても、中古品として販売することができる商品では、新品の価額から中古品の市場価額を差し引くべきではないか?と疑問を持つ方がいます。

もちろん厳密に言えば、返品した商品には中古としての市場価値があるので、損害額から差し引くべきと言えます。

しかし、万引きの損害賠償において、そのようなことが問題となるケースはほとんどありません。
なぜならば、犯人側がそのような主張をすれば、被害者が怒って示談に応じてくれなくなるだけだからです。

(2) 精神的損害(慰謝料)

精神的損害とは、被害者の精神的ショックや不快感を言います。そして、これに対する補償金を慰謝料と言います。

犯罪の被害者が必ず精神的なショックを受けるとは限りません。しかし、損害賠償責任の根拠となる民法の不法行為制度では、実務の慣行として、犯罪被害者に対する慰謝料請求を認めています。

(3) 万引きの損害賠償はいくら?

痴漢や盗撮をした場合は慰謝料だけが問題となりますが、これと異なり、万引きの損害賠償金は、財産的損害に精神的損害の補償を合わせた額となる場合があります。慰謝料は心の問題なので、これを請求するかどうかは、被害者次第だからです。

財産的損害の金額は、前述したとおり、多くの場合、新品としての販売価額ですから、事案によって異なりますが、算定は容易です。

他方、慰謝料の金額については、これを決める基準はありません。弁護士の相場感覚としては、数万円から多くても10万円程度といったところです。

ただし、慰謝料に限らず、示談交渉における損害賠償額(示談金)の額は、基本的には被害者の言い値です。示談を望んでいるのは犯人側ですから、これは仕方ありません。

漫画本一冊の万引きでも、被害店舗が万引き被害に悩まされている場合は、高額の慰謝料を要求されるケースもあるでしょう。
逆に、被害品が高額商品でも、誠心誠意の謝罪を受け入れてくれれば、わずかの慰謝料で納得してくれるケースもあるでしょう。

3.万引きでは示談が重要

万引きをしてしまったら、被害者と示談をするべきとよく言われますが、これはいったいどうしてなのでしょうか?

(1) 示談とは?

示談とは、犯罪事実を許すとする加害者と被害者の合意を言います。

示談においては、示談金を払うことになります。示談金は損害賠償金のことで、先ほど述べた財産的損害に対する補償と精神的損害に対する補償を合わせたものです。

(2) 示談が重要な理由

まず、示談金を被害者に払うことによって、被害者から民事訴訟等で損害賠償を請求されることが無くなります。つまり、示談が成立することは当事者間の問題を清算することを意味します。

示談をすることは被害者にとっても有益です。なぜなら民事訴訟等の手間をかけずに一定額の金銭補償を受けることが可能になるからです。

また、もっとも重要な点は、示談が成立すると、窃盗の罪で起訴される可能性が低くなります。検察官は、被疑者の行為態様、被害額、初犯か否か、被害者の処罰感情等の様々な事情を考慮して被疑者を起訴するか否かを決します。

刑事訴訟法248条
犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。

示談が成立していることは、被害者が犯罪事実を許したことを意味します。そのため、示談の成立は、検察官が起訴判断を回避する可能性を高めてくれます。

検察官が起訴をしないという事は、罰金を払ったり、懲役刑に科され刑務所に収監されたりすることはありません。つまり、以前通りの日常生活を送ることができます。

(3) 弁護士に示談を依頼すべき理由

万引きをしてしまった場合は被害者と示談をすることが重要なのは理解できたと思います。

しかし、被害店舗との示談交渉を被疑者やその家族・知人などが直接に行うことは避け、専門家である弁護士にまかせるべきです。それは次の理由によります。

①仮に被疑者本人が真摯に反省し、その家族や知人が誠意をもって謝罪したいと考えていても、被害者側からみれば、万引き犯の仲間です。信用できる交渉相手と思ってはもらえません。弁護士のように交渉相手として信頼できると評価される資格がある者が必要です。

②万引き被害を受けた店舗側が恐れるのは、逆恨みによるお礼参りです。店をかまえている以上、被害者側は、その場所を動くことはできません。得体の知れない人物と接触し、交渉することは避けたいところです。この点からも、社会的信用のある弁護士に依頼することがスムーズな交渉を可能とします。

③当事者同士の直接交渉では感情的な対立から、交渉が紛糾してしまう危険もあります。弁護士は被疑者の味方ではありますが、法律の専門家として、冷静に客観的な視点から紛争の解決を図ることができます。

④万一、被疑者側の足元をみて、不当に過大な示談金を要求されても弁護士であれば的確に対応します。

過去の事例や裁判例を示し、被疑者側の経済事情を説明するなどして、被害者を説得し、納得を得ることが弁護士の仕事の基本です。

しかし、事案によっては、高額な金額を支払ってでも早く示談を成立させてしまったほうが得策という場合もあります。例えば、被疑者の入学や就職、縁談などが迫っているケースなどが考えられます。その場合は、スピードを最優先した処理をすることになります。

逆に、あまりに不当な要求であれば、弁護士が、毅然とこれを断ったうえで、示談が成立しないのは被害者側の不当要求が原因であることを検察官、裁判官に主張することで、不利益を回避する方策もとれます。

もちろん、このためには、示談交渉のやりとりを逐一記録し、証拠化して検察、裁判所に提出する作業が必要となります。また、この場合は、相当と判断される示談金を法務局に供託したり、贖罪寄付をしたりすることもあります。

刑事弁護の専門家であればこそ、このような事案に応じた臨機応変な対応が可能となるのです。

【贖罪寄付】
贖罪寄付とは、一定金額を弁護士会などに寄付し、犯罪被害者などの役に立ててもらうことを言います。店舗(特にチェーン店など)によっては、示談交渉に一切応じない方針をとっていることがあります。そこで、贖罪寄付をすることで、被疑者に有利な事情として考慮してもらうことを期待するのです。

4.まとめ

万引きは軽い犯罪だ!という観念に縛られるのは非常に危険です。場合によっては、高額の損害賠償金や、刑事手続で厳罰に処される可能性があります。

万引きをしてしまった方は、早期に弁護経験が豊富な泉総合法律事務所へご相談ください。

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