債務整理

FX取引で生じた追証金などの借金による自己破産と税金

FX取引で生じた追証金などの借金による自己破産と税金

自己破産手続によれば、一部の例外を除く、借金の返済義務などの金銭支払義務、つまり「債務」(債権者から見れば「債権」)を、全て無くすことができます。

自己破産手続で免除してもらえる債務には、一般的なサラ金や銀行からの借金やローンなどのみならず、FX取引の失敗により証券会社から請求されている追証金も含まれます。

ロスカットが間に合わないほどの市場の乱高下のために、想定をはるかに超えた追証金を一度に請求されてしまった方でも、自己破産手続によれば、その追証金の支払義務を免除してもらえるのです。

ただし、自己破産手続でも負担のなくならない支払義務が、ほんの一部ですが存在します。
その代表例である税金は、FX取引による追証金で自己破産する際に大きな問題となってしまうことがあります。

このコラムでは、FX取引による追証金などの借金を自己破産手続で債務整理する場合について、税金問題に特に触れつつ説明します。

1.自己破産手続について

まず何かと誤解されやすい自己破産手続について、基本的な内容を説明します。

自己破産手続とは、支払いきれない借金を、裁判所に申立てをすることで、ほとんどの財産を債権者に配当する代わりに、一部の例外を除く借金などの債務につき、全額を免除してもらえる債務整理手続です。

自己破産手続により借金が免除されることは「免責」、また、裁判所が免責を決定することは「免責許可決定」と呼ばれています。

(1) 手続の内容

自己破産の手続には、簡略化された「同時廃止」と、やや複雑な「管財事件」の二つの種類があり、裁判所が選択します。

FX取引をしている方は、管財事件での手続となるでしょう。

莫大な追証金が生じるような大きなレバレッジをかけたFX取引は、投資行為であり、投資のために借金を重ねてしまうと、原則として免責されないと法律上定められている事情である「免責不許可事由」に該当してしまいます。

そのため、免責不許可事由について調査をする「破産管財人」が選任される手続である、管財事件が選択されるのです。

(2) 自己破産のメリットとデメリット

①メリット

自己破産手続のメリットは、なんといっても借金全額が原則として完全に免除されることです。免責さえしてもらえれば、手続後に金銭問題に悩まされることはほとんどありません。

この点は、手続後も返済負担が残るほかの債務整理手続とは決定的に異なります。

収入のない学生や主婦の方、退職して専業トレーダーとなっていた方でも、利用可能です。

②デメリット

一方、デメリットとしては、ほとんどの財産が処分されてしまうことが無視できません。FX取引に全財産をつぎ込んでしまっているならばともかく、持ち家や預貯金などの財産がある方に取っては大きな問題となります。

もっとも、「自由財産」といって、生活のために必要な財産はある程度残されますので、極端に悲観する必要はありません。

場合によっては大きな問題となるデメリットが、資格制限です。

自己破産手続中は警備員や金融関連の資格など、他人の財産を取り扱う資格で働けません。勤務先の協力を得て、手続中休職や転属をする必要があります。

なお、財産や持ち家を維持し、また、資格制限から逃れたい方は、裁判所を利用して借金を減額し分割返済する個人再生手続を利用することで、債務整理が可能です。

しかし、個人再生手続でも回避できないデメリットもあります。

ブラックリストへの登録や官報への掲載などもありますが、一番厄介なものが、「債権者平等の原則」に伴う様々な弊害です。

債権者平等の原則とは、裁判所を用いる債務整理手続に関しては、債権者は公平に扱われるという原則です。この原則があるため、親族や友人、同僚からの借金なども強制的に免責されてしまいます。

その借金を隠せば免責不許可事由に当たります。

また、特定の債権者、たとえば、友人からの借金だけ返済してしまうことも、債権者をえこひいきした不当なものだとして、「偏頗弁済」という免責不許可事由になります。保証人がついている借金も手続の対象となりますから、保証人に請求がされてしまいます。

これらのデメリットは弁護士にできる限り早く相談することで、ある程度回避し、または、ダメージを抑制できる場合もありますので、一人で悩まず、すぐに弁護士に相談しましょう。

そして、このコラムの主眼となるデメリットこそが、自己破産手続であっても(そして他のいかなる債務整理手続であっても)、税金の支払負担を減らすことはできないということです。

税金に関して詳しくはのちに説明するとして、次は、FX取引が原因の借金や追証金でも、自己破産をすることができる点について説明します。

2.FX取引が原因の追証金や借金でも自己破産で無くせる

為替相場が乱高下し、FX取引をしている方がパニックになるたびに飛び交うデマが、「FX取引による損失は自己破産で無くせない」というものです。

確かに、先ほど述べた通り、FX取引による借金は、免責不許可事由に該当します。これがそのデマの根拠でしょう。

実際、免責不許可事由が規定されている法律の条文だけを読むと、免責不許可事由があると免責されないというようにしか読めません。

しかし、実情は全く異なっています。

裁判所が債務者の事情一切を総合考慮して免責を認める「裁量免責制度」があることにより、むしろ、免責不許可事由があっても、ほとんどの場合は免責許可決定が下りているのです。ですから、極端に免責されないリスクを恐れる必要はありません。

ただし、念を押させていただきますが、免責されないリスクがあることは間違いありません。

裁判所が免責させるべきではないと判断するような問題点があれば、実際に免責されないことはあります。

そのリスクをできる限り少なくするには、FX取引で身の丈を超えた大きなレバレッジをかけてしまったことなど、金銭感覚や生活態度に大きな問題があったことについてしっかりと反省していることを、正直な報告や真摯な手続への協力、反省文の提出などで、破産管財人や裁判所に明確に示すことが最も重要です。

また、他の免責不許可事由に当たる行為をできるだけしないようにしましょう。

債権者平等に関して触れた偏頗弁済は、一般の方が特についしてしまう免責不許可事由です。

他にも、債権者を害する行為、なかでも財産を他人に預け、または、名義変更して配当処分から逃れようとすることは、それだけで免責不許可となるだけでなく、犯罪にもなりかねません。

もちろん、弁護士に相談した以降は、FX取引をしてはいけません。取引明細などは全て証券会社に記録され、裁判所に提出されます。

破産管財人は郵便物のチェックや銀行口座の照会など、強力な調査権限を持っていますから、隠し通すことは決してできません。

3.自己破産で無くせない税金とFX取引への課税の問題

FX取引による損失について裁量免責をしてもらったとしても、自己破産の基本で説明した通り、税金は全く減りません。

一般的な自己破産手続においては、弁護士が債権者に対して受任通知を送付し、取り立てをやめさせ、それまで借金返済に充てていたお金で、滞納している税金を支払うことになります。

しかし、以前からFX取引を継続されていた方が、一挙に高額の追証金を請求された場合には、さらなる問題が生じる恐れがあります。

(1) FX取引と税金

FX取引による利益には、所得税がかかります。

2019年現在、基本的には20%程度ですが、海外業者を用いている場合などには、それをはるかに超える税率がかかることもあります。

さて、ある年の税金の金額は、1月1日から12月31日までの利益を基準として計算されます。そして、実際に税金を納めるのは、翌年の2月半ばから3月半ばです。

そのため、ある年にそれなりの利益を出していたものの、翌年1月に為替の急激な乱高下が発生したために、前年からの利益どころか全財産を吹き飛ばすような損失を被ってしまっていたとしても、3月半ばまでに去年の利益に基づいて計算された税金を納めなければならないのです。

もちろん、そんな状態で納税できるわけもありません。

税金の滞納が続けば、「滞納処分」により、財産を処分されてしまうことになります。

(2) 滞納処分とは

滞納処分とは、税金を滞納している人に対して、役所が裁判所を通さずに、強制的に財産を差押えして処分することです。

生活必需品や一定の給料はさすがに見逃してもらえますが、自己破産手続における自由財産制度のような制度がなく、配当手続よりも多くの財産が処分されてしまいます。

限界まで財産が搾り取られ、生活が成り立たない状態になると、滞納処分は停止され、その状態が3年続けば、納税義務から逃れられますが、もちろん、そんなことを期待してはいけません。

滞納処分を回避するには、役所で分納手続をすることが重要です。

(3) 分納手続とは

分納とは、滞納している税金を分割払いすることです。

無い袖は振れませんから、役所としても、協議をすればたいていは認めてくれます。

しかし、必ず認められるわけではないうえ、担当者次第で分納内容も十分なものとなる保証はできません。法律上、分納可能な期間も限定されています。

他にも、期間猶予や、税金同様免除されない年金や健康保険料については、免除制度もありますが、大きく負担を軽減できることは期待できません。

4.それでも自己破産をするべき理由

そんなに怖い税金をどうしようもできないなら、自己破産しても意味がないじゃないかとヤケになってしまうお気持ちもよくわかります。

しかし、それでも自己破産をするべき理由は、間違いなくあります。

(1) 税金以外の借金の免除

FX取引により生じた、莫大な追証金の存在を忘れてはいけません。もし、多重債務も負っているならばなおさらです。

税金以外で免責されない支払負担は、主に、悪質な行為による損害賠償金や、養育費ぐらいのものです。

完全な解決ができないからといって、少しでもマシな解決策をあきらめるべきではありません。

(2) 税金分納に良い影響を与える

確かに、自己破産手続は、直接、納税負担を軽減することはできません。

しかし、自己破産で追証金などが免除されることを役所の担当者に伝えれば、証券会社や貸金業者など、他の債権者より先に財産を滞納処分で差し押さる必要はなく、分納手続によりしっかりと税金を支払ってもらえると理解してもらえます。

そうして、分納自体を認めてもらい、また、負担をできる限り軽減できるような内容にしてもらえる可能性が高くなります。

(3) 滞納処分の一時的な回避が可能

自己破産手続中は、滞納処分といえども、財産の差し押さえができなくなります。

一時的な措置とはいえ、分納協議がすんなりいくとは限りませんから、先手を打っておくことは重要です。

手続開始前に滞納処分をされてしまった場合には、一般的な借金による場合とは異なり、差し押さえを解除させることはできません。

弁護士への相談も、役所との交渉も、ともかくまず動きましょう。

なお、自己破産のデメリットを回避できるとして紹介した個人再生手続では、手続中でも滞納処分をされてしまいます。

5.FX取引による借金を自己破産で整理する場合は弁護士に相談を

2019年1月3日早朝、ドル円の為替相場が、一瞬にして1ドル108円台から104円台へと大きく変動しました。正月早々、インターネット上には、FX取引をされていた方の悲鳴が溢れかえるこの世の地獄が現れてしまいました。

2018年にFX取引で多額の利益を出していた方々の中には、その利益以上の損失を被ってしまい、早急に債務整理が必要となっている方が少なくありません。

しかし、落ち着いて、そして迅速に弁護士に相談してください。FX取引が原因の債務である追証金でも、早くから弁護士に相談して不適切な行動をしないよう心がければ、免除してもらえる可能性は十分にあります。

各種のデメリットについても、専門家の助言により抑制できる可能性があります。

そして、2019年正月の悲劇のように、自己破産しても税金が免除されないとしても、税金の支払い負担を少しでも減らすには、自己破産手続は有用なのです。

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