破産管財人が債務者の自宅に来る(訪問する)場合について
借金を原則として全額免除してもらえる債務整理手続である自己破産手続では、債権者に配当できる財産がある場合や、免責不許可事由(原則として借金が免除されなくなってしまう事情)が疑われる場合などには、破産管財人が裁判所により選任されます。
破産管財人は、債務者の財産を調査したうえで換価し、債権者へ配当し、また、免責不許可事由の有無や内容を調査して、裁判所に報告します。
自己破産を検討している方の中には、破産管財人について調べていくうちに、自宅にすら来るのではないかと不安になってしまう方もいるかも知れません。
ここでは、破産管財人が債務者の自宅に来るのはどのような場合であるか、説明しましょう。
このコラムの目次
1.破産管財人とは
破産管財人は、自己破産手続のうち、管財事件という種類の手続において、裁判所により選任され、手続の進行を手助けする役職です。
破産管財人の役割及び権限は、冒頭で説明したとおり、基本的に配当や免責不許可事由に関するものです。しかし、債務者の借金が全額免除されるために大きな損害を被る債権者のため、債務者の財産を配当することは非常に重要です。
また、おいそれと借金を帳消しにする訳にもいきませんから、免責不許可事由についても綿密な調査が必要となります。
そのため、破産管財人は、様々な強力な権限を持っています。
(1)財産の調査
破産管財人は、債務者の財産を徹底的に調査することが出来ます。
債務者が提出した財産目録や財産の有無、内容、価値を証明する資料を基に、債務者に対して、説明や各種の協力、財産の開示を要求することが出来ます。
債務者は、破産管財人に対して、破産法上、協力義務、説明義務、重要な財産の開示義務を負っていますから、破産管財人からの上記の要求を拒み、また、嘘をつくことは違法な行為となり、また、免責不許可事由にもなります。
他にも、債務者宛ての郵便物のチェックや、銀行への口座照会、独自の財産の査定など、債務者の財産を正確に把握するための様々な権限が与えられています。
(2)財産の換価と配当
自己破産手続の開始を裁判所が決定すると、配当されるべき債務者の財産は、破産管財人の管理下に置かれます。
破産管財人は、債務者から没収した財産を処分して換価し、債権者に対して、各々の債権額に応じて公平に配当します。
(3)否認権
否認権とは、債務者が不当に財産を流出させ、配当に支障を生じさせた場合に、流出先の相手方から財産を取り戻すことができる、破産管財人が持つ権限です。
具体的には、財産を不当に安く売却し、または、譲ることで配当を減少させる詐害行為や、債権者を手続上平等に取り扱わなければならないという債権者平等の原則に反して、特定の債権者にだけされた返済である偏頗弁済があった場合に、その相手方から財産を取り戻すことになります。
なお、詐害行為と偏頗弁済は、免責不許可事由になっています。
(4)免責不許可事由の調査と裁判所への意見
上述の詐害行為や偏頗弁済、そして浪費やギャンブルなどの免責不許可事由があった場合には、破産管財人は、債務者との面談を行うなどして、免責不許可事由の内容を調査します。
免責不許可事由がある場合でも、裁判所の判断で免責を認める裁量免責という制度があり、破産管財人の意見は、裁判所が裁量免責を認めるか否かの判断に大きな影響を与えます。
実務上、殆どの場合は裁量免責がされていますが、悪質な場合には、本当に免責されないことがあります。
2.破産管財人が債務者の自宅に来る場合
破産管財人が債務者の自宅を訪問することは、殆どの場合はありません。
しかし、債務者の財産についてより正確に確認するために、債務者の自宅を訪問することは、決してない訳ではありません。
(1)財産隠しが疑われる場合
破産管財人の中心的な役割は、何といっても債務者の財産を債権者に配当することにあります。そのため、債務者が財産を隠して配当を逃れようとしているのではないかという点については、破産管財人は神経をとがらせています。
もっとも、弁護士が代理人となっている場合、原則として破産管財人は、弁護士が債務者と綿密に連絡を取り、財産をすべて把握したうえで自己破産手続を申立てていると信頼していますので、自ら債務者の自宅を訪問して、財産を確認し、財産に関する資料や書類を収集することはありません。
しかし、例外的に、債務者の言動に怪しい点がある場合や、提出された財産に関連する書類や資料につじつまの合わない点があり、その点についての質問に対して債務者が明らかにおかしい説明を繰り返す場合など、債務者が弁護士にすら嘘をつき、財産を隠しているのではないかと疑われる場合には、債務者の自宅を訪問して、財産の調査を行うことがあります。
もし、財産隠しが発覚すれば、破産管財人の債務者に対する視線は非常に厳しいものとなります。
財産隠しは、非常に悪質な免責不許可事由です。
自己破産手続の基本的な枠組みは、債務者の財産を債権者に配当することを代償に、債権者の利益を大きく損ねることになっても、経済的に困窮している債務者の救済のために、税金で運営されている裁判所が、債務者の借金を免除するというものです。
にもかかわらず、裁判所をだまして、債権者への配当を減少させ、債務者自身の財産を違法に持ち続けようとする行為である財産隠しは、最悪の場合では犯罪となりますし、また、高い確率で免責がされない、もしくは、手続後であっても、免責が取り消されることになります。
(2)高額な財産を持っている場合
債務者名義の不動産がある場合や、高価な物品を持っている場合に、破産管財人が債務者の自宅を訪問することがあります。
その目的は、上記の財産を売却できるか、売却できるとしたらどれだけの価値になるかを正確に査定するためです。
高額な財産ともなると、実際に確認しなければ、どれほどの価値を持つかどうかの目星が立たないこともありえますので、そのような場合に、自宅訪問がされます。
もっとも、殆どの場合は、業者の査定書などを提出すれば、破産管財人が自ら確認しに来ることはないでしょう。
問題となるのは、業者の査定書がずさんで問題がある場合などです。
(3)浪費など生活上の問題がある場合
浪費による自己破産は珍しいものではありません。むしろ、自己破産に至る原因の中でも代表的なものと言えるでしょう。
破産管財人は、債務者に浪費が認められる場合には、しばしば、定期的な面談と家計簿の提出を要求し、生活状況を把握するとともに、債務者が生活を更生できるよう、指導を行います。
また、それを通じて、免責不許可事由である浪費に関する裁判所への意見書を作成します。
もっとも、債務者の生活は面談や家計簿だけで全てわかるとは限りません。
実際に債務者がどのような生活をしているのかを実際に破産管財人の目で確かめるために、自宅訪問がされることがあります。
(4)個人事業主や法人経営者の場合。
個人事業主や法人経営者は、事業に関わる権利関係が複雑で、事業用の財産も多数保有しています。
そのため、具体的な財産状況を正確に把握するために、破産管財人が訪問することがあります。
3.事前の弁護士相談が何よりも大事
上記のように、破産管財人が債務者の自宅を訪問する具体例を色々と上げてきましたが、結論としては、少なくとも都市部の裁判所に手続を申立てた場合には、滅多に自宅を訪問されることはありません。
そのため、家族に自己破産をしたことが発覚するのではないかと、過剰に恐れる必要はありません。
また、いざ自宅訪問というときにも、あくまで手続をするのは債務者だけですから、家族のプライバシーにまで破産管財人が調査を及ぼすということは、財産名義を家族に変えて財産隠しをしようとしていたと疑われているなど、極端な事情が無い限り、まずありえないでしょう。
ただし、財産隠しを疑われてしまった場合は、自宅訪問の恐れが現実となります。
そもそも、説明したとおり、財産隠しは自己破産手続の中でも特に悪質とされる不正行為です。自宅訪問をはじめ、破産管財人には強力な調査権限が与えられていますから、隠し通すことは出来ません。発覚すれば、よくて免責不許可、悪ければ犯罪です。
確かに、自己破産手続での財産の処分は債務者にとり大きなデメリットとなります。また、破産管財人への対応は、裁量免責がされるか否かに直結するため、不適切な対応をすれば、免責がされない恐れも生じます。
債務整理に精通した弁護士への事前の相談と、率直な財産の開示を行ってください。
自己破産手続にはデメリットや規制が多いですが、それらを潜り抜ければ、借金を全額免除してもらえるという大きなメリットを得ることが出来ます。泉総合法律事務所には、自己破産に精通した弁護士が多数在籍し、皆様のご相談をお待ちしております。借金問題にお困りの皆様は、是非お気軽にお問い合わせください。
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